〔城砦〕Ciudadela
〔サン・フアン川〕の橋を南へ渡ると、視界が広がります。中央が〔死者の通り〕南部で、右に〔グレート・コンパウンド〕、左に〔城砦〕があります。
↓〔城砦〕の北西の角が見えます。
そのまま歩くと、北の基壇の外側を見通します。上の写真の左半分が、後に触れる〔職人の囲い〕です。近づきたいのですが、〔死者の通り〕の舗装面から侵入制限されています。
↓西の基壇の外側です。中央に、中央階段があります。その手前に〔死者の通り〕が横切り、私は下がって、入り口1を背にして写真を撮っています。
ここでも、舗装面から南へは侵入禁止です。つまり、〔城砦〕基壇の外側をぐるっと回れません。しかし、地図を見ると、絶望的ではなさそうです。入り口5まで戻りましょう。そこを出て、周回道路を利用してみます。
↑at 人類学博物館のジオラマ。〔アドサダ基壇〕があるので、西暦378年以降の姿。
入り口5から700mほど南下すると、網フェンス越しに、↓周回基壇の北東の角が目に入ります。その北側が、〔職人の囲い〕の東端です。
↓すぐに北の基壇が見え、遠く南東の角も見えます。
下の写真が、東の基壇上の3つの神殿です。その向こうに、〔羽毛の蛇のピラミッド〕があるはずです。西の基壇の真ん中から日の出を見た場合、〔羽毛の蛇のピラミッド〕の頂上、この3つの神殿の左右の2つの小神殿が、左から冬至、春分秋分、夏至の日の太陽の位置と重なります。
ティカルの〔失われた世界〕で述べましたが、これが〔城砦〕の「E-Group」です。農作業の節目を知る重要な指標装置です。
先に進み、振り返ると、↓〔羽毛の蛇のピラミッド〕の頂上、東の基壇の3神殿、さらに右に〔太陽のピラミッド〕が見渡せます。
この辺りの外周道路です。右側に〔城砦〕があります。↓路面は荒れたアスファルトです。その外側にレストランが並んでいます。ホテルもあるようです。
昔はどんな風景だったのでしょうか。
現在の周回道路は、写真中央の上から降りてきて〔城砦〕の南東の角で西へ曲がっています。曲がり角の現在は、レストラン街です。その外側には現代の建築物が密集しています。
よって発掘調査は芳しくないのですが、中心街神殿／住宅と比べればはるかに質素な家屋や小さな広場や神殿の痕跡、多少の農地が見つかっていたようです。〔城砦〕にはほとんど住宅はありませんでの、特別なエリートを除く人々はこういった外縁周辺部に住んでいたと推測されます。それは、〔城砦〕コミュニティー地域と呼べるかもしれません。
下が、外周基壇の南東の角です。
次は南の基壇の4つの神殿です。
さらに西へ向かうと、〔城砦〕の南西の角があります。写真正面に〔月のピラミッド〕、右上に〔太陽のピラミッド〕があります。
高低関係で推測できるように、両ピラミッドの頂上へ上がれば〔城砦〕を見下ろせます。でも地表にいれば、〔城砦〕はほとんど見えません。この位置関係が〔サン・フアン川〕を挟んだ2つの地域の人々の心理に、何らかの影響を常々もたらしていたかもしれない、と感じる私は考えすぎでしょうか。
ここから周回道路に沿って歩いて行くと、入り口1に出ます。そこを東へ入れば、〔グレート・コンパウンド〕を通り、周回基壇の西面を見ることになります。2km弱の長い散歩は〔城砦〕の広大さを実感させました。さて、この400m四方の中で、紀元少し前から西暦550年まで、何が起きていたのでしょうか。この場所では、大きな動きが3回ありました。
1回目……西暦1年の後……400m四方を高い基壇で四角に囲い、他者を拒絶した。
２回目……西暦150年の後……基壇内のほとんどの建築物を撤去し、平坦化し、新たな〔羽毛の蛇のピラミッド〕を建て、その地下に200以上の生贄を埋葬した。
３回目……西暦378年（＝350年〜400年）……〔羽毛の蛇のピラミッド〕の装飾が全面的に破壊され、さらに正面たる西面に〔アドサダ基壇〕を建築して覆い隠した。
おそらく、1回目と2回目は、元々からこの地に住んでいた人々の選択によるものだったでしょう。だが3回目は、とてもそうとは思えません。どういう経緯ならそうなるのか——。仮説を立てる前に、1回目から時代順に追っていきましょう。
その１……西暦150年以前
〔城砦〕の場所は、紀元前1000年頃からこじんまりした農村集落があったと言われています。下の図には当時の３つの窪地が報告されており、農業用の溜池だった可能性が高い。あまりに古過ぎて検証されにくいのですが、〔月のピラミッド〕の西側にもう一つの農村集落があり、この２か所が核になって、発展していった可能性が高いと言われています。
では、〔城砦〕という地域で、農業生産をメインの産業であることをやめ、農地は都市外に移され、都市化という視点で西暦150年までに何が行ったのかを見てみましょう。
西暦1年〜150年には、儀式の舞台だったと言えます。取り囲む周回基壇は、現在より1mほど低かったのですが、ほぼ形はできていました。
現在、私たちが見渡す広大な大広場には、多くの建築物がありました。それがほとんど壊されて、再建されません。西暦150年頃に、15cm程度の厚さに平に土が盛られて、整地され広大な広場として残っています。それが発掘上の功を奏し、後の建築物に邪魔されずに調査が可能になりました。
広場の土には、粉々になった様々な物が混じっていました。色々な動物の骨のかけら、メキシコ湾産や太平洋産の貝殻や魚の骨、マヤ地方からと推測される陶器の剥片は、〔城砦〕の人々が西暦150年の前から活発な交易を行っていたことの証でしょう。
エリートが住んでいたはずの住宅も取り壊されました。また、〔羽毛の蛇の神殿〕の地下に、西暦150年以前の微かな壁と基礎が見つかりました。現在の〔羽毛の蛇の神殿〕の前身が存在したと思われます。
集合体1
居住機能はなさそうなので、大きな儀式用建築物だったと思われます。
建築物5
現在見られるのは中央祭壇だけです。微かな基礎部の痕跡から、考古学者たちは、数の黒い線を引きました。さらに、茶色波線で囲まれた箇所には全く痕跡がありません。西暦200年の前の土地の平坦化の時に、何らかの理由で完全に除去したのでしょう。つまり、東半分の線には根拠がありますが、西半分には証拠はありません。
しかし一方、何もなかったとするのも不自然です。鏡を立てて当てて見たら、あら、なんと球儀場が浮き上がりました。123×108mの巨大なそれです。典型的なI字形です。中央のグラウンドを挟んで通常は基壇上に２つの神殿が向かい合います。東のそれは中央祭壇として後世に残り、西のそれの可能性は、あまりに想像に過ぎるので、論文では言及しなかったのでしょう。
テオティワカンに常設の球儀場はない、と昔から言われていましたが、〔プレ城砦〕に存在したと、考古学的に十分言えます。傍証として、〔プレ城砦〕トンネルから12個のゴムボールが見つかっています。
上の写真は西の基壇から東を見ています。左上の中央祭壇と、西の基壇の、今は広い平地に、建築物5／球儀場がありました。
中央祭壇
20m四方で、高さは3m。
1B-Prime（＝南の建築物Edificio Sur）
〔アドサダ基壇〕から南西を見ています。写真中央の白い屋根の下にあります。
右の階段↓が最終形の一部で、上には神殿があったはずです。
中央に見える白っぽい壁↓は、建築２層目です。後の時代に、完全に覆いつつ増築していったようです。外壁壁画のデザインは、解説によれば、中心に三重丸があり、そこから８方向へ長方形が出る幾何学模様です。
年代は明確にされていませんが、もしかしたら、テオティワカンで最古の壁画かもしれません。
大広場がリニューアルされた結果、エリート中のエリートは、西暦200年頃に整備される集合体1Dと1Eに住み始め、下位エリートは周回基壇の外に引っ越した、と想像されます。
人工トンネル
工事は3回です。170年、200年、250年。工事ごとに石灰岩の複数の仕切り壁で封印しました。トンネルからは数万個と言われる奉納品が出土しています。2003年の発見ですが、全ての遺物の分析結果は発表されていません。現在も、アドサダの西の白いテントの中で、分析が行われているようです。
↑白いテントの中に、「250年までの出入り口」と「430年の出入り口」があります。
以下、博物館等に展示されているものを載せますが、どこの工事の時期に捧げられた物なのかは判然としません。遺体はありませんでした。なお、奥の32mで西暦1年〜100年の炭化物が検出されましたが、その時代に作られ、170年に埋納された可能性があります。
最奥の十字形の四方部屋の奥に、4体の緑石フィギュアが水銀を蓄えた小さな水路に守られていました。そのうちの2体です。
↑↑古代メキシコ展2023。スカートの女性は高さ53cm、荷を背負う男性は36cm。
この4体はおそらくは祖先を意味し、トンネルそのものも数多の奉納物も「創始者たち」に捧げられたとも考えられます。
最奥部から数百個の法螺貝のうちの2つです。左の男性はアトラトルを保持。右はマヤ的な神像。
↑↑古代メキシコ展2023。
トンネルの最奥部に、数百個の南部のプエブラ産のオレンジ器がありました。また、古いスタイルの〔トラロック神〕の壺も埋納されていました。10種類に分類される〔トラロック〕壺の、意図的に破壊されて剥片が25,000個あります。
↑古代メキシコ展2023。直径43cm 。↑古代メキシコ展2023。高さ29cm。
他に、球儀用のゴムボール12個、5,000種類の種子、箱に入れられたカブトムシの羽などが報告されています。なお、トンネルの内壁には細かい黄鉄鋼の粒が無数に嵌め込まれ、松明に照らされて、宇宙を感じさせたことでしょう。
250年に封印してから180年後の430年に、「430年の出入り口」から入場がありました。竪穴を使っての天文観測ではないか、と推測されます。その時にトンネルでたいた焚き火で年代がわかりました。ちなみに、「430年の出入り口」を蓋していた地面が2003年に大雨で陥没し、調査が始まりました。
盗掘の跡がありました。しかし、盗掘者は落盤で埋まっていたトンネルの上部を進んだために、床面の数万個の具物に気づかなかったようです。
その２……西暦200年〜378年
200年頃に、〔サン・フアン川〕の流路変更が完成し、不要になった東の運河と西の運河が埋められました。〔城砦〕の大広場に導かれる排水溝に、少なくとも40人の生贄遺体がありました。
地下生贄墓地
〔羽毛の蛇の神殿〕の建設前に、その地下に生け贄の墓が掘られました。
↑at 文化博物館。
１、大広場面から17mの深さ。報告されている墓室は21で、ここでは南北方向の左右対称性から推測して他に13。
２、確認遺体は137遺体で、10歳代の男女がほとんど。未発掘分などを想像すると、260人前後と考えられています。260という数字は、宗教歴の260日に符号する。
３、全員の両腕が後ろ手で、足首も縛られていた。骨に外傷はない。
４、137人は、頭か背中が、ピラミッドの中心に向く。
５、健康体で、服装は均一。
６、8、9、18、20という数字は宗教暦上の節目の数字と一致する。
幾つか、個別の墓室を見ていきます。
G-13……軍（采配）指揮棒と言われる木彫が副葬されています。
↑at 東京の古代メキシコ展。56cm。
G-14……緑石の鼻飾り。ガラガラ蛇の尾と言われています。
↑at 東京の古代メキシコ展。6cm。
G-005
↑at 人類学博物館。レプリカ。↑at 文化博物館。オリジナル。
右から2人目がG-005-Hで、ネックレスが見えます。そのオリジナルが右の写真です。赤い帆立貝と白い巻貝で作られています。人間の顎に見えるカーブした物も、貝殻製です。
G-010あるいはG-011……10〜15歳の少女4人が埋葬されていました。
↑at 文化博物館。レプリカ。↑at 文化博物館。オリジナル。
これも貝殻製です。他に、貝の耳飾り、黒曜石の尖頭器と粘板岩の円盤も副葬されていました。
ところで、生贄にされたのはどんな人物だったのでしょうか。
１、土器がない。テオティワカン在住の家族の墓地で、土器が副葬されていない墓室は見つかっていない。よって、この地に家族や生活とは無関係の遺体である。
２、10歳代の男女がほとんどである。仮に戦争で確保した外国人捕虜だったら、それより上の年代の男性が多数を占めるはず。よって、戦闘なしに、テオティワカンの支配下にある遠くの村落の住民が連行され、生贄にされた、という推測が成り立つ。
３、上記の２が成立すると仮定して、テオティワカン政府にその権限と実行力があったけれども、同時期に建設されていた〔月のピラミッド〕と〔太陽のピラミッド〕に同規模の生贄がなのは、何か原因／理由があったはず。
地下生贄墓地への盗掘者は誰か？
上の図に、盗掘トンネルが白い波線で示されています。350年〜500年のものという解説があります。いや、しかし、その頃には〔城砦〕は一大劇場型香炉の工房と化しており、集合体1Eと1Dには〔城砦〕のエリート及び工房管理者が住んでいたはずです。そんな状況で、〔羽毛の蛇のピラミッド〕の南東の角から密かに盗掘トンネルを掘り進めことが可能かどうか疑問です。
私の想像ですが、ピラミッドの地下に多数の埋葬があることは語り継がれており、ピラミッドの聖が破壊され、当初の意味を失った後、つまり西暦378年以降に〔城砦〕を職場として住んでいた住民が臨時収入を得ようとした、というのが真相ではないかと思っています。
ところで、墓室が17mまで掘られていたのですから、ピラミッド中心部の地下16mの〔城砦〕トンネルとは干渉しなかったのでしょうか。深度測定の違いの1mは、誤差でもありえます。仮に墓室の床と〔城砦〕トンネルの天井が触れ合っていても、トンネルは土砂や陥没で埋まっていたとのことですから、上にいた「盗掘者」は気づかなかったのでしょう。また、一方、西暦430年にトンネルに入れた方たちには、門外不出の言い伝えがあったのでしょう。
さて、「新ピラミッド建築基礎」はできました。〔羽毛の蛇のピラミッド〕に取り掛かりましょう。最初に、二つの神像を検証します。
〔羽毛の蛇〕Feathered Serpent
↑at 古代メキシコ展2023。
大きな顎から太い牙が生えています。鼻は、先割れ舌のようでもあります。羽毛はわずかに、目と上顎の間に見えます。〔羽毛の蛇〕はテオティワカン各所で見てきました。メソアメリカ全域に、昔からそのイメージは存在していました。例えば、テオティワカンの南150kmに、紀元前800年〜前500年の製造と見られる記念碑5があります。チャルカツィンゴChalcatzingo遺跡にあります。
↑↑記念碑5の全景と拡大図。チャルカツィンゴ遺跡。
〔シパクトリ〕Cipactli
↑at 古代メキシコ展2023。
原始的なワニという表現がよく見かけられます。牙の上の四角い上唇／鼻は、鱗のように見えないこともありません。その奥に目があり、その上には〔トラロック〕表象があります。耳の部分は巻貝の表現でしょうか。
この神像には、多くの考古学者が使用するのを承認している一般的な呼称がありません。1100年後のメシーカ文化の絵文書に似ている図像が見つかり、その神像が〔シパクトリ〕と呼ばれていました。ですので、「メシーカ文化のシパクトリ」と言われています。メシーカ文化では、「原始の初めの日」の意味を持ちます。
これを頭に入れた上で、〔羽毛の蛇のピラミッド〕の西面を見てみましょう。
〔羽毛の蛇のピラミッド〕Feathered Serpent Temple
細部の写真を載せても良いのですが、人類学博物館の巨大レプリカの方がよくわかるでしょう。
↑↑↑at 人類学博物館。再構築。裏側に、生贄墓室G-005の再構築。
赤、緑、黄色が使われていたようです。典型的なタルー・タブレロ建築様式をベースにして、タルー部分には水路が描かれ、タブレロの枠には太い丸の〔トラロック〕象徴が連続してます。
3枚目のタブレロの中に、左から、〔羽毛の蛇〕、ガラガラ蛇の尾、短く蛇の羽毛の胴、〔シパクトリ〕、〔羽毛の蛇〕の胴と巻貝、〔羽毛の蛇〕、ガラガラ蛇の胴、という構成です。
何となく、〔羽毛の蛇〕の胴に〔シパクトリ〕が乗っているようにも見えます。また中央階段の手すりに〔シパクトリ〕はいません。ですので、主神は〔羽毛の蛇〕だったと思われます。
〔羽毛の蛇〕は、地上を這い、地下へ繋がる洞窟へ潜り込む、羽で空へ飛ぶ蛇です。地下、地上、天空を網羅します。それに、〔トラロック〕つまり水に魚介類が描かれ、メシーカ時代の解釈としての「世界の始まりの日」を意味する〔シパクトリ〕が加わります。
それらが基本的に四角錐だと見て取れるピラミッドの全面に施されています。四角は、四方向に関連します。地下には、再び日の出をする太陽への栄養補給としての生贄が200体以上、収められています。つまり、この建物は、古からメソアメリカに伝わるほとんど全ての宇宙概念を具象化した、強烈な建築物です。
サイズは、62m四方で、残存する高さは20mです。他の２つの巨大ピラミッドと比べると、こじんまりしています。が、手間をかけなければならない石彫の多さを考慮すると、労働量はほとんど同じだろうと言われています。
基壇は7段という説も6段という説もあります。また、最上段に木製神殿があったらしい、とも囁かれています。ピラミッドの４面全てに同様の石彫が施されていたはずで、〔羽毛の蛇〕と〔シパクトリ〕の合計は360個か365個だった可能性が高いとも言われます。
↑↑↑at 文化博物館。下の2つは〔羽毛の蛇の神殿〕の一部を構成していたと説明されている石彫です。こういうふうに設置されていたのでしょうか。右は北面で出土したそうです。
下の石像は、〔羽毛の蛇のピラミッド〕の北東の角にありました。のっぺりした頭部は、メシーカ時代の、皮を剥がされた神であるシペ・トテクXipe Totecの先駆けと説明されています。
右はアルメナでしょう。三角は光線、台形は多分タブレロ、丸は〔トラロック神〕を表しているのでしょうか。上のジオラマの仮説上の最上段の神殿のアルメナのアイディアは、この遺物からきているのかもしれません。
↑↑at 文化博物館。
〔城砦〕エリア出土の黒曜石です。
↑↑↑↑↑at 文化博物館。
集合体1Dから出土の〔トラロック神〕像の器です。左から右へ、年代順と想像します。
↑↑↑↑at 文化博物館。
その３……西暦378年以降
集合体1Eはそのまま保持されました。D1は西側に増築され、内部の間仕切りが細かく変更されます。一説には、〔城砦〕の北側の〔職人の囲い〕の活動のためにそうなった、と言われています。聖なるD1から、俗なるD1への変化です。まあ、主に生産したのが劇場型香炉ですので、それ自体は聖だと言えますが。
〔アドサダ基壇〕
左が〔アドサダ基壇〕で、右ののっぺりしたマウンドが〔羽毛の蛇のピラミッド〕です。今、間に空間がありますが、20世紀にそれはなく、〔アドサダ基壇〕の4段のタルー・タブレロが右のマウンドに伸び、食い込み、密着していました。
しかし今現在の姿は、写真を見てもわかるように、北、東、南面には何もなく、しかし西面はアドサダに覆われ、最上段は摩耗崩壊しています。これは意図的になされた破壊行為でした。
そこには、蛇や四角い彫刻が多数残り、かなりの高温で焼かれた跡が見つかりました。他の3面では、彫刻が差し込まれていたはずの四角い穴が多数見つかりましたが、大昔に引き抜かれ、〔羽毛の蛇の神殿〕の周囲にゴロゴロと放置されていました。
では、大広場の中央から階段を登り、〔アドサダ基壇〕の最上段へ上がってみましょう。
最上段は真っ平です。が、木造の神殿の残骸と赤い地色の壁画の残存物があったと報告されています。ここは〔城砦〕のほぼ中央で、ぐるりと見渡せます。
上が北西方向で、下の左が集合体1Dで、下の右が集合体1Eです。
最上段の東側に築かれた石段を降りましょう。観覧席が用意されています。
〔アドサダ基壇〕は次のように説明されます。
１、以前から存在した小規模な建築物を取り除いて、西暦 350年〜400年に建築された。
２、建築目的は、明らかに、焼却した〔羽毛の蛇のピラミッド〕の西面を覆い隠すこと。
３、内部には、〔羽毛の蛇のピラミッド〕からの瓦礫が詰められている。
４、生贄はない。神像も掲げられていない。
５、建築素材やデザインは吟味されているとは言いがたく、やっつけ仕事で急いで造られた。
６、〔城砦〕内の他の建築物は破壊や略奪を受けていないので、手を下したのは外部勢力ではない。テオティワカン人が、破壊し、建築した。
集合体1Dと1E、〔職人の囲い〕
1Dと1Eは、〔羽毛の蛇の神殿〕と周回基壇に密着して建築されていました。西暦200年の前からあったようです。〔羽毛の蛇の神殿〕に伴い、大幅にリニューアルされました。
↑on Google Earth。
南の集合体1Eは、西暦200年のレイアウトがそのまま550年まで残っています。西側中央に広場があり、小さな広場を中央にもつ部屋の組み合わせが、それを囲んでいます。
↑集合体1E。
北の集合体1Dは、1Eと同じレイアウトでしたが、西暦350年〜400年から、壁を増やして、内部をもっと細かく仕切るようになります。さらに、西側に、増築部が追加されます。基壇の北側の〔職人の囲い〕ができるのと連動していたと推測されます。
↑↑集合体1D。
↑↑↑集合体1D増築部。
つまり、〔アドサダ基壇〕建築以降は、1Eは宗教的な活動の場であり続け、1Dは〔職人の囲い〕の生産活動にフィットする事務所機能を持ち始めた、ということでしょう。
集合体1Dで出土した円盤です。〔トラロック神〕が描かれています。年代は西暦350年〜550年。
↑at 文化博物館。19cm。
〔職人の囲い〕が成立したのは西暦350年〜400年で、550年まで継続しました。目立った遺物は残っていなかったのですが、細かい剥片等から、劇場型香炉の工房だったと言われています。
以下は、〔城砦〕ではありませんが、テオティワカン内で見つかったものです。台座で香を炊き、香りはもちろん、煙が上部の装飾の各所から登ります。つまり、形状と煙の効果を計算して制作されたようです。
↑at 文化博物館。
↑↑at 人類学博物館。
また、上の右は、大量生産のための雛形で、手早く型をとれたでしょう。
〔羽毛の蛇のピラミッド〕の破壊と〔アドサダ基壇〕建築の時から、〔城砦〕は劇場型香炉の一大生産拠点としての整備がなされていきました。
