第１部…散歩の前に

あれやこれやは、いつの時代か(1-01)

　テオティワカンには、メキシコの全古代遺跡の中で最大の発掘資金が投入されています。今日でも興味は尽きないようで、多くの学者が発表する論文数は、もはや一人の人間では読み切れないと言われています。

　論文上で基本的に最重要な事項は、「この建物は、あるいはこの壁画、器はいつの時代の産物か」ということです。テオティワカンの発掘史において、出土する陶器の年代測定が主となります。放射性炭素14の分析も行われるのですが、年号までの精査はまだできません。

　例えば「この器のそばの焼けた有機物の測定値は、西暦357年±61年」と発表されます。これは、「西暦296年〜418年」という意味です。誤差は小さくありません。

　多角的な視点から、考古学者たちは時代を50年単位でくくれそうだと判断しました。そして期間に命名しました、ツァクアリ期とか、トラミミロルパ期とか。例によって、学者により、その期間の開始年と終了年に50年ぐらいの差が生じています。うーむ、学説は尊重します。しかし、紛らわしい。
　そこで、本サイトでは、「当たらずといえども遠からず」の、概ね100年間を単位とする西暦年で表示することにしました。

　ところで、一つだけ、西暦年が確定しています。1,000kmも離れたティカル遺跡の石碑31に刻まれた西暦378年が、遠く、しかし強くテオティワカンを照らします。

　ある学説では、西暦350年頃に、中心街神殿／住居の建物の外壁が赤く塗られ始め、中心街神殿／住居と近隣集合住宅の至る所で内壁に壁画が描かれ始めると報告しています。ほぼ同時期に、その頃までほぼ50年ごとに拡大されてきた２つのピラミッドに増築がほとんどなされなくなるという事が生じました。私には、その社会変化が西暦378年の異変と深く関わっている、と感じられます。