〔テパンティトラ〕Tepantitla

　敷地の利用は西暦225年から650年です。現存する全ての壁画は西暦350年〜550年に描かれたとされています。

　左の写真は、赤い矢印方向に、中庭1の北東の角から見ています。
　右の写真は、緑の矢印方向に、中庭1の南西の角から撮りました。中央左の広い階段の上に、基壇1があります。神殿があったはずです。その左の、開いているドアが通路2です。

　中庭9…戦士の正面像の連なり

　観光看板に私の注釈をつけておきます。正面を向いているので、神です。ちなみに、横顔は司祭／戦士の人間です。〔トラロックの意匠〕、ジャガーの爪、矢の束を持っているので、戦士の神です。

　部屋7と8…歩く司祭の連なり

　中央右の壁画の拡大写真です。香の袋を下げていますので、司祭です。右へ歩いています。

　部屋3…戦士の円形盾の連なり

　円形盾は戦士に属します。説明看板には「爬虫類の眼」を表す象形文字だと書かれています。爬虫類とは蛇でしょうか。それなら、「鳥と蛇の合体」の意味するのでしょうか。 また、左と右では、鳥の足の向き、象形文字が異なります。

　中庭2…〔トラロックの樹木〕と〔トラロックの楽園〕

　中庭1から通路2へ入ります。

　壁画はほとんど剥落して、クリーム色に塗られてあります。残っている部分を見ると、中庭2のそれと同じようです。門口の向こうの壁に、〔トラロックの樹木〕と〔トラロックの楽園〕の壁画の一部が見えます。

　明らかに、テパンティトラ近隣集合住宅の中心でしょう。天窓が切られ、窪んだ方形貯水槽があります。縁に、水抜き穴も再現されています。地下には排水溝があるのでしょう。

　中庭の反対側に、〔トラロックの樹木〕と〔トラロックの楽園〕の壁画があります。いや、上の写真の床近くに、またその上の写真の通路2にも、それの部分が残っています。おそらく、通路2と中庭2の全ての壁面は、その壁画の連続で埋まっていたのでしょう。

　下の右の写真の角口を見ると、壁面下部の下から上に向けて傾いています。そのすぐ上は、横長にせり出しています。タルー・タブレロ建築様式の要素です。

　全体像がよくわかりませんので、人類学博物館の再構成を見てみましょう。豪華、緻密、大胆。しかし、壁画断片をどう想像すると、これを構成できるのでしょうか。まるで、圧倒的にピースが紛失しているパズルを完成させてしまったようです。

　↑at 人類学博物館。再構成。

　若い考古学者たちが中庭2の隅でこそこそ話し合っていました。押し出された一人が教授に話しかけます。
　——あのう、壁に貼り戻した欠片は、もともと剥離して、床に重なっていたんですよね。
　——そうだ。私がこれを発見したのは、第二次世界大戦中だった。根気があれば再構成できる。君たちも身につけなさい。
　——あのですね、例えば、ここに蝶が飛んでいますね、そっちで平民がボール遊びしていますね、元々の箇所は、そこから数センチ、数十センチ、違う場所だった可能性は皆無ではないと言えないこともないような気もするんですが。
　——まとめ上げるアートの才能も必須だよ。
　——あ、いや、僕らは考古学は科学だと思うんですよ、文系の学問ではなくて。天文学とも似ている気がします。つまり、そのう、過去は発見するものであり、発明してはいけない、と。
　——すると、残っているままを見るだけ、そして復元はけしからん、というのが君の意見だね。
　——……。

　以下、2024年の現地の復旧壁、人類学博物館、及び2023年の東京の古代メキシコ展の再構成図の混合で見ていきます。まず、枠から。

　↑at 人類学博物館。再構成。

　　天井に接続する最上部には花咲く木がまばらに描かれています。一本ずつ、形が違います。

　　　　　　　

　中央に〔トラロック神〕がいて、背面で2本の水路が絡まります。流れに乗っているのは、人間と金星でしょう。

　その下に、水面の波で縁取られ、トラロック神が要所に位置し、金星の水路から植物が立ち上がり、チョウセンアサガオらしき花弁から水が、水路に戻ります。

　　　

　↑遺跡。↑at 人類学博物館。再構成。

　壁面上部…樹木の神

　↑at 人類学博物館。再構成。

　様々な小動物が集ます。司祭が履くサンダルのポンポンはマヤ的です。

　水と血は、同型の雫で表されます。人は命の血を神々に捧げ、神々は人に生命の水をもたらします。メソアメリカには、はるか昔から、自己犠牲の思想がありました。テオティワカンも例外ではなかったようです。

　壁面下部…〔トラロック〕の楽園

　↑遺跡。

　では、〔トラロックの楽園〕に散りばめられた意匠を見ていきます。

場面01…大小ボールの蹴りとボウリング。
場面02…〔トラロック〕の眼を備えたトンボ。
場面03…声を発しながら大ボールを蹴る。
場面04…〔トラロック〕の眼を備えた蝶。
場面05…4人に手足を保たれて横たわり、声を発する人。

場面06…蝶を串刺しにして声を発する人。
場面07…不詳。
場面08…不詳。
場面09…4人が枝で蝶を狩る。

場面10…布を肩掛けして声を発する人。
場面11…腰を落とした人へ、布をかけようとしている人。
場面12…不詳。
場面13…蜘蛛。
場面14…ふんどしを巻き直す。

場面15…不詳。
場面16…人を、声を発しながら背負う人。
場面17…不詳。
場面18…語り合う二人。
場面19…不詳。

場面20…しゃがんでボールを転がす人。
場面21…上に声を発する人。
場面22…手で音を発する人。
場面23…二本の棒を並べ、他の誰かについて声を発する人。
場面24…４人連なり発声団。

場面25…しゃがむ１人を４人が囲む。
場面26…薄い基壇に立てた棒にボールを置く？　左端の棒とボールの上の物は不詳。

場面27…不詳。
場面28…２人でボウリング。正面顔は審判か？
場面29…声を発しながら、頭から水を流す。
場面30…四弁の花を摘む。

場面31…花咲く木の下で、声を発しながらたたずむ。
場面32…不詳。
場面33…貯水池の淵で、枝を振り上げて声を発する。胸から水流。
場面34…上が水流で、下が灌漑農地。魚とチョウセンアサガオ。
場面35…水流に潜る魚と畦道の四弁の花。

場面36…昇る魚と花。
場面37…水路末端の貯水池に、カエル。
場面38…水路上の骸骨に四弁の花。
場面39…水路と木の間に、チナンパ農業の盛り土。
場面40…四弁の花の上の何かは、地名の可能性があるらしい。

　　　　　　　
場面41…重箱とボウル？
場面42…獅子舞？
場面43…竜舌蘭。
場面44…不詳。
場面45…四弁の花の上は、地名？　鰐あるいは〔トラロック神〕？
　（以上は遺跡で、以下は人類学博物館のリコンストラクション。）

場面46…４人が木の丸くて白い果実を食べる。左上の犬も食べる。
場面47…頭部だけが、茎に絡まる。

場面48…棒を手にする８人。立派な衣類。上の列の左から２人目は、ボールを転がす？　その上に、足首が不自然に曲がり、褌だけの人が涙を流して横たわりつつ、手は倒れた棒へ伸びる。
場面49…倒れた「ボール・マーカー」と、球儀者らしき服装の３人。

　なお、場面48と場面49で横になっている物体は、〔ラ・ヴェンティリャ〕近隣集合住宅で出土したそれと酷似しています。

　↑at 人類学博物館。〔ラ・ヴェンティリャ〕出土の「ボール・マーカー」。

　後に触れますが、専用球儀場は西暦100年の〔プレ城砦〕にあったと報告されています。西暦120年以降は、テオティワカンでは新築されていません。〔テパンティトラ〕の壁画は350年以降に描かれているので、球儀専用場はないのですが球儀はどこかで行われていた、とも見て取れます。

　壁の下部の痕跡から、中庭2の4面全てが、〔水の山〕と〔トラロックの楽園〕で覆われていたと思われます。

　では、東側の部屋2へ移動しましょう。

　部屋2…種蒔き司祭の連なり

　↑再構成 at 人類学博物館。

　全員ほとんど同じ構図ですが、一人ずつ、異なる点があります。例えば中央の司祭と右の司祭の手からの吹き出しの頂点からぶら下がる植物の描き方が異なります。部屋2の全員が剥落なしで残っていれば、違いが明白に見て取れたはずです。

　　　

　この違いを、「実は個人名ではないのか」「いや、地名かもしれない」と提案する考古学者たちもいます。が、名前はどう読む、土地は何処と突き詰めようとしても、他のサンプルが少なすぎて、先へ進めません。

　ところで、最初にあげた見取り図を見ても、衛星写真を見ても、この建築物の縁がよくわかりません。近隣集合住宅の一般的な建築／増築は、高い外壁で囲った平均43m四方の矩形を、狭い通路を挟んで、四角いタイルのように並べます。

　下は、仮想図です。赤い四角が観光できる〔テパンティトラ〕で、黄色が想像上の集合住宅棟です。赤が宗教的機能を担いますので、黄色のどれかが、工房あるいは住居である可能性があります。

　↑at Google Map。

　〔テパンティトラ〕の壁画の主題は２つで、軍と宗教的視点から見た農業だと思われます。