〔ミチョアカン〕Michoacan（別名：E19）
（関連…グアチモントネス、ティンガンバト）
西暦200年前後に北半分が建設され、後に南半分が追加されました。550年が、最後の建築です。
遺物は、ミチョアカン州とオアハカ盆地の両者が見られます。仮説として、ここには最初はミチョアカン人が住み、すぐ隣の〔オアハカ・バリオ〕と行き来し、婚姻が成立し、混じり合って住んでいたのではないか、と指摘されています。
墓地に関する報告があります。
墓E31……西暦300年前後。火葬／屈葬の成人男性。ミチョアカン遺物はない。
墓E30……3人とも関節を外しての火葬。薄オレンジ色の土器3個と置物1個。まず、西暦300年前後に60歳の女性が埋葬され石板で封印され、次に西暦350年〜550年に、石板を破壊して、50歳の男性が埋葬され、生涯をテオティワカンで過ごした8歳の子供、 1人はZone-1（太平洋岸、メキシコ西部、オアハカ渓谷）に長期滞在し、1人はテオティワカンからZone-1に移動し、ここへ戻った。
墓E27……西暦250年以前に、外された骨の14人が一度に埋葬。うち、成人男性はZone-1で生涯のほとんどを過ごした。10歳の頭蓋骨は、テオティワカンあるいはZone-1で生き、そのまま死去。子供の頭蓋骨は、3歳未満でテオティワカンからZone-1に移動し、8歳で死去。
墓E25……オアハカ墓地。年配男性は幼少期をテオティワカンで過ごし、死の直前に、オアハカ盆地から戻る。中年男性は、少年期にZone-2（メキシコ中央高地、南部のモレロス州、プエブラ地方、メキシコ北部のイゴルダ州）で過ごした。
墓E15……西暦300年前後に墓へ転用され、550年まで利用。重なった14人。うち、幼児2人はストロンチウム分析上のZone-1で出生直後を過ごした。2人は幼少期をZone-3（マヤ高地南部、メキシコ北部のイゴルダ州）で過ごした。
Zone-1にメキシコ西部とオアハカ盆地が含まれていますので、判断しにくいところですが、上記のストロンチウム分析は、人々が近隣集合住宅へ縛り付けられてはいなかったことがうかがえます。
次に、ミチョアカン近隣集合住宅の住民の出身地と目されるミチョアカン州湖水地方へ飛びましょう。
ミチョアカン州湖水地方
↑on Google Map。
大多数の考古学者の意見として、この近隣集合住宅への最初の入植者たちは、メキシコ西部のミチョアカン州の湖水地方から来ていたと判断されています。そこはテオティワカンでよく流通していた「薄オレンジ色の土器」の土の産地でした。
↑↑at 人類学博物館の西部メキシコ室。
そして、ミチョアカン州湖水地方は、紀元前300年〜西暦550年のテウチトランと呼ばれる文化圏の東端にあたります。
テウチトラン文化Teuchitlan
北はアメリカ合衆国との国境、西は太平洋岸まで広がる広大なエリアにありました。竪坑墓（たてこうぼ）、円を重ねた祭壇複合体、祭壇の頂点に立てた木の幹からぶら下がり鳥の神になる儀式、柔らかい印象の陶芸が特徴です。全ての遺跡に上記の要素が揃っていたわけではなさそうですが、概ね、同じ文化を感じさせます。
↑at グアチモントネス博物館。
↑at グアチモントネス博物館。竪坑墓の類型。aが穴、bが通路、cが埋葬室です。
↑at グアチモントネス博物館。再構成。
一般化された竪坑墓の再構成ジオラマです。土器、マノとメタテ、動物の骨、フィギュア、法螺貝が副葬されています。ここにはありませんが、多くの竪坑墓に建築物等の粘土細工も添えられていました。
なお、出土箇所が明確な遺物はほとんどありません。年代も不詳です。20世紀、竪坑墓は格好の盗掘の的になり、多くが買い手に渡りました。それを、各博物館が買い戻し、展示してあります。出土箇所は不明ですが、誰の目にも、テウチトラン文化の産物だと感じられます。
↑↑↑at グアチモントネス博物館。
↑↑↑at グアダラハラ地域博物館。
では、テウチトラン文化の一つの遺跡を訪れてみましょう。
グアチモントネス遺跡 Guachimontones
ミチョアカン州湖水地方から300kmほど西にあります。最大人口は6,500人と言われていますが、遺跡だけのそれではなく、広大な農地の農民も含まれていると思われます。
↑on Google Map。
上の地図の赤枠が、これから見ていくグアチモントネス遺跡です。800mほど東に、規模は小さいようですが同じような建築物が写っています。これは、グアチモントネス２遺跡（別名…ロマ・アルトLoma Alto）です。つまり、以下のような相関図になります。
←800m→ 
先の地図の「展望箇所」に立ってみましょう。
南を見下ろしています。写真の左にラ・ヴェガ湖の一部が映り、その右方向へ緑地が伸びています。手前に現代のテウチトラン市があります。市街地開発の際に大量の土器が見つかり、中心地があるのかな、と探したところ、その北側の高台にグアチモントネス遺跡が見つかったそうです。市街地のちょっと手前の狭い緑地がそこです。
向かいには、黒曜石の鉱山が連なっています。様々な色合いのそれが今でも拾い集められるとのことでした。
↑グアチモントネス博物館。
遺跡は、Circleと命名された円形複合体の集合体です。Circle-2と球儀場1に関して、グアダラハラ地域博物館とグアチモントネス博物館の展示物を、私が貼り付けてみました。
このCircleをグアチモントンGuachimontonと呼び、遺跡名がグアチモントネスです。
平面図を見ましょう。6つのCircleと2つの球儀場が図示されています。実は、ほとんど未発掘のCircleがそばに4つあります。800m離れたグアチモントネス２にも、複数のCircleと球儀場があるので、例えば10km四方に限っても本当は幾つあるのでしょう——。
それはそれとして、遺跡に入ります。
Circle-2です。中央に円形祭壇があります。それをドーナツのように円環広場が囲み、さらに基壇が全体を縁取っています。10の基壇は、段数も広さも高さも微妙に異なります。ですので、今は全てが朽ちてしまいましたが、建っていた建築物の姿もそれぞれ違っていたと推測されます。
儀式／祭りには、円形祭壇に樹木の幹が立てられ、その上で嘴を強調した衣装の人が、飛ぶかのように回っていた、と、下の土器の写真から想像されます。
↑グアチモントネス博物館。↑Circle-3。
最大規模のCircle-1です。
これを先に復元すべきではないか、と誰でも感じます。原型の85%以上が残っていれば、Inahは予算を組むのですが、それが満たされていません。よく見ると、石組みはかなり崩れており、木の根がかろうじてシルエットを保っているようです。
何年も前に、盗掘者が竪坑墓の下に宝があると確信し、頂上から直径1.5mの穴を掘り始めました。ところが奇妙なことに、グアチモントネス遺跡には竪坑墓はないのです。10m掘り下げて諦めて、埋め戻さずに去りました。その穴を目掛けて、崩落が生じた、と現地ガイドが説明しました。
Circle-1の北側です。手前が円環広場で、基壇があり、その向こうにも基壇が見えます。司祭たちの住居が建っていたのではないでしょうか。
球儀場1です。南東から北西を見ています。
振り返ると、球儀場の南東面があります。
球儀はなぜ行われたのか。現地ガイドが面白いことを言っていました。農村地域ではいつも、水利権や新規開墾地に関して、トラブルが生じる、主張には若干の正当性と嘘があり、問い詰めると後腐れが残るので、球儀で勝った集落に権利を認める、それをルールにしていたのではないか。うーん、なるほど。
全域を俯瞰してみましょう。一見して分かることは、まとまりのある地域なのに、Circle間に建築軸がないことです。2つの球儀場は、並列も直行もしていません。地形が理由かな、とも想像していたのですが、どうしようもない高低差があるわけではありません。不詳です。
収穫祭あるいは宗教暦に基づいて、「鳥になる祭り」が開かれたことでしょう。でもそれは、全てのCircleで一斉に、あるいは数日なり季節なりをずらして開催されたのでしょうか。
また、建築年代がわかっているCircle-1、2、3、4、6と球儀場1は、微妙に重なり、ずれています。さらに、Circleの基本構造は同じですが、規模が違います。特に大きな違いは基壇の数の違いです。これが違うと、その上に建っていたはずの建築物の数が変化します。
１、展望台から見た農耕地には、水路等で管理単位が異なっており、水系農業コミュニティーが複数存在していた。
２、農地面積等により、コミュニティー間に経済差があった。
３、裕福なほど、大規模なCircleを建築／管理できた。
４、裕福なほど、コミュニティー内に有力な農家は多く、それぞれが別荘／神殿を建てるべく、基壇数も多くを求められた。
グアチモントネスには、他者を圧倒するただ一つの巨大建築物はありません。規模に差はありますが、住民のそれぞれの心の中心地たるCircleが複数並立しており、それで農村コミニティー全体は600年間成立し続けました。あれっと思いつきました、テオティワカンにも、「他者を圧倒するただ一つの巨大建築物」はありません。
西暦300年に、人口が減り始めます。現地ガイドは、ラ・ヴェガ湖の水位が低下した、流れ込む川の水、つまり雨が減って農耕面積が減少したことと、南の山の黒曜石鉱山業が広域的価値を失い始めたことが重なったからでしょう、と説明しました。
テウチトラン文化が衰退した西暦550年のすぐ後に、ミチョアカン州湖水地方から80km西南西に、興味深い建築物が現れました。
〔ティンガンバト〕遺跡Tingambato
ミニチュア・テオティワカンとも言えそうです。
↑on Google Earth。
西暦600年〜900年の建築です。タルー・タブレロは一部のみですが、雰囲気は〔月のピラミッド〕や中心街神殿／住居に似ています。西暦550年に焼き討ちされたテオティワカンのエリート層が、馴染みのあったミチョアカン近隣集合住宅の住民を頼って移住し、懐かしく建設した、とも囁かれています。
メキシコ西部への旅を終えて、テオティワカンへ戻りましょう。〔月の広場〕から、〔死者の通り〕を降って行きます。まずは東側をみましょう。
