〔トラヒンガ地区〕Tlajinga

　白い四角が建築物です。〔トラヒンガ地区〕には100棟以上見つかっており、15.5度の建築軸に準じています。報告されているエリアを超えて、若干数がありそうです。便宜上、きちんとした白い四角で書き出しましたが、実際には、これまで見てきた近隣集合住宅とは異なります。

　現代地名のトラヒンガをそのまま、遺跡の名称に採用したようです。下の写真は、トラヒンガ-17の50mぐらい南から、北を撮影しています。昔から農業地域であったらしく、今も同じ土地利用がなされています。

　写真に〔太陽のピラミッド〕が写っていますが、見えますでしょうか。下に、拡大写真を載せておきます。白い門柱と赤い門扉の上に、2.5km先の灰色のそれが写っています。

　中心部のどこでも、〔太陽のピラミッド〕は仰ぎ見る存在ですが、ここでは、若干の遠さを感じます。また、下は、50mほど移動した箇所からの写真です。右の山が〔セロ・ゴルド山〕で、月のピラミッドは角度的に見えませんが、〔太陽のピラミッド〕は微かに眺められます。

　ご覧の通り、遺跡の痕跡は今は農地の下に眠っています。

　紀元1年〜200年には、簡易な建物が分散する農業地帯でした。テオティワカンの都市化とともに、都市化されない農地の重要性が増しました。400m四方の灌漑システムが確認されています。また都市部の近隣集合住宅では豪華な装飾品が生産されましたが、ここでは、シンプルで橙色の薄型土器の製造が役割となりました。

　100棟以上の建築物は日干しレンガと石積みで造られ、〔死者の通り〕の両側を見た目には、貧弱だと感じられたことでしょう。西暦200年頃に、テオティワカンの中心エリアでは、建材と労働力と設計図提供の政府主導都市開発がタルー・タブレロ建築が伴われて進められたはずですが、〔トラヒンガ地区〕までは及ばなかった可能性があります。しかし、住民たちは〔死者の通り〕と一体化すべく、地元独力の努力はなされたようです。

　〔死者の通り〕延長線は、長さ430m、幅40m、深さ1mだと報告されています。が、巨大建造物までは手が回らなかったようです。トラヒンガ-17と〔死者の通り〕の延長線の間の擁壁は脆い造りだったとも書かれています。

　建築物に漆喰や壁画がほとんど見られないことも、また、数多の墓室の副葬品から、上位エリートは存在しなかったと思われます。メソアメリカの特定の地域の産物が集中して出土しているわけではないので、移住者が多かったとは言えない地区だったのでしょう。

　数多くの棟の一つ、トラヒンガ-33のレイアウト図を見てみましょう。

　祭壇や神殿の最初の日付は西暦225年〜300年です。外周壁がありません。外から現物を見たら、継ぎ足し継ぎ足しで大きくなっていったと感じられたでしょう。内部の仕切りも、内壁の角度が入り乱れ、必要な空間のための工事はなされたが、その周りには手をかけなかった結果が残されています。

　北にある埋葬57だけが例外で、人目を惹きます。西暦200年〜250年の墓で、50歳代の男性が埋葬されていました。副葬品は、4,000個の、糸を通す穴のある小さな巻貝、多数の陶器、〔トラロック神〕のゴーグルを意図した装飾品などです。トラヒンガ-33の創始者の可能性も提案されています。

　また、西暦500年頃の、多数のミニチュア着せ替え粘土フィギュアが報告されています。以下の遺物は、トラヒンガ出土とは明記されていません。が、書物のトラヒンガ出土物にそっくりなので、載せておきます。

　　　

　↑↑at 人類学博物館。

　　　

　↑↑at 文化博物館。

　他に、トラヒンガ-18には石敷の床があり、儀式として多くの陶器が意図的に破壊された痕跡があります。亀の甲羅の楽器、18cmの緑石の仮面が見つかっています。

　トラヒンガ-17には415kgの黒曜石が残っており、加工作業は続き、700年までの営みの痕跡があります。黒曜石の各種の加工段階の残留物は、職場訓練を想起させます。