建築物の細部について(1-05)

１……タルー・タブレロTalud-Tablero建築様式

　↑４つの小神殿の広場。↑タルー・タブレロ建築様式断面図。

　テオティワカンの大多数の建築物はタルー・タブレロ様式で建てられています。外からの見た目は魅力的なデザインだと言えますが、断面図で見ると、赤い線で示したタルー（傾斜部分）が、上からの重量を支えにくくなっているような気がします。現代でも、斜めの外壁を持つ建築物はほとんどありません。

　下は、テパンティトラの中庭2の写真です。右半分が中庭の内側です。内壁の腰板に当たる部分が傾斜しており、その上は垂直です。内装にも、タルー・タブレロ様式が使われました。

　↑テパンティトラ。

　なお、この様式はテオティワカンの独創様式ではなく、紀元前300年頃からメソアメリカ各地で認められています。例えば、チョルーラ遺跡の東の、ポポカテペトル火山の噴火軽石の層の下に、テティンパTetimpa遺跡が発掘されています。

　都市の象徴たる〔月のピラミッド〕と〔太陽のピラミッド〕はタルー・タブレロ様式ではありません。あれほど巨大な重量には耐えられないから、と言われています。　

２……建物の角は直角か　

　杉山三郎氏は、様々な計測をして、テオティワカンの長さの単位は83cmであると判断しました。また、宗教暦の260日から得られる数字260の2倍である（520×0.83m）＝431.6mが、〔太陽のピラミッド〕等の巨大建築物の敷地の一辺に相当することを報告しています。さらに、著書「テオティワカンを掘る」の中で、多くの建築物の外壁は89度と91度で組み合わされており、直交してはいない、と指摘しています。確かに、広く見れば、この都市は建築軸に直交していると言えますが、細部を目を凝らせば微細な逸脱があります。

　また、いくつかの論文は、テオティワカンの通りは建築軸からわずかに逸れてはまた建築軸に戻り、少なくない数の建物の外壁が通りへせり出していると観察しています。その程度は箇所により様々ですが、化学繊維的ではなく、綿で編まれた布の風合い、を醸し出している可能性があります。もしかしたら、観光客も考古学者も、〔太陽のピラミッド〕のなだらかに上昇するラインや、実際の建築物の、都市建築軸からの微かなずれに柔らかい感触を感じているのかもしれません。　

３……60年たっても最新マップが出版されない理由　

　考古学者ミロンが率いた、画期的なテオティワカン・マッピング・プロジェクト（TMP）で報告された1960年代の地図が、今でも使われています。60年以上が経過しているのに、「最新版」は出版されていません。おそらくは、現代の学者たちが、どうせ「最新版」を作るなら徹底的に精緻であるべきだが、上記のずれを完璧に反映できるほどに発掘が進んでいない、今はミロンのそれで大きな支障はない、と考えているからではないでしょうか。