第２部……寸劇

寸劇の前置き

　第４部のテオティワカンとティカルの点描を、私が俯瞰し、かなり強引に線で繋いだフィクションです。

　西暦1年からのテオティワカンの歴史の中に、節目と感じられる時期が４つあります。西暦1年、120年、378年、550年です。もちろん、節目と節目をつなぐ時代は不変だったわけではなく、都市の様々な要素が徐々に変化していったように見えます。

　政治体制は、評議会制を選択しました。観光散歩の結果にフィットし、独裁制は見えないと考えたからです。一方、評議会の構成はどうなっていたのかと探ってみても、詳細は靄の中にあります。各地区の歴史の古さ、経済力、位置、建築の品質には差がありますので、当然、評議会の中での暗黙の序列はあったはずです。評議会説に傾きつつある考古学者たちも、代表的な評議会員がどの中心街神殿／住居、あるいは近隣集合住宅に住んでいたのに関しては、答えを出すことに躊躇しています。

　この寸劇中、私の仮説として、現在の〔羽毛の貝の神殿〕、〔城砦〕、〔サーラ〕、〔柱の広場〕に評議会序列１〜４番がいた、と設定しました。

〔羽毛の貝の神殿〕は西暦100年〜250年、〔ジャガーの神殿〕は350年〜450年、〔羽毛の蝶の神殿〕は450年〜550年の建築／継続です。西暦100年以前には、同じ場所に木造の羽毛の貝の祠（ほこら）があっただろうと仮定しました。よって、この場所の長は、時代別に、〔祠の長（おさ）〕、〔羽毛の貝の長〕、〔ジャガーの長〕、〔羽毛の蝶の長〕と命名しました。

　〔城砦〕の場所には、西暦120年まで〔プレ城砦〕があったので、〔プレ城砦の長〕、120年以降は〔城砦の長〕と呼ばれます。他に、〔サーラの長〕、〔柱の広場の長〕が登場します。序列の順位は、歴史の深さ／経済力の大きさの違いを考慮しました。

　第一位は、〔羽毛の貝の祠の長〕であり、生業は黒曜石の加工、のちに〔月のピラミッド〕を管理。
　第二位は、〔プレ城砦の長〕であり、生業は石彫と広域交易、のちに〔羽毛の蛇のピラミッド〕を管理。
　第三位は、〔サーラの長〕で、生業は雲母を使った工芸品生産、のちに〔太陽のピラミッド〕を管理。
　第四位が、〔柱の広場の長〕で、〔柱の広場〕を管理。

以上が、評議会における上位4名と設定しています。

寸劇１…西暦1年(2-01)

　西暦1年のテオティワカンのマップの構成物は、陶器剥片の分布と泉、微かな用水路と溜池の他は報告されていません。

　〔祠の長〕は木造の小さな祠を掃除していた。
　〔プレ城砦の長〕が声をかけた。「長老、自らお掃除ですか？」
　〔祠の長〕は笑った、「増えた連中が貢物を捧げにくる。いつも綺麗にしてしておかないとな」
　「私のところでも、大きめの平な石を南に向けておき、南端に高い石を置いてます。祭壇でしょうね」
　「ポポカテペトルへ向けているのかな」
　「そうでしょう。高い石が火山でしょうね」
　手前の柱２本の中央に、羽の生えた法螺貝が刻んである。
　「このシンボルは——」
　「空と海をまとめたやつだ。東の方の村で掲げていたと聞いたので、借用した」
　〔プレ城砦の長〕は自分のことを考えた。羽毛の農業用水、あるいはトウモロコシか。いや、うちなら、羽毛のジャガーか蛇だろう。
　「今日は相談に来ました」
　「ほほう、私に、〔プレ城砦の長〕が助言を求めにやってきたか」
　「どんどん人が押し寄せて来てます。好き勝手に住み始めている。悪さはしないが、そのうち土地と食べ物の奪い合いが起きそうです。どうしたものでしょうね」
　「そうよなあ——」と二人であれやこれやを出し合った。

　１、難民移入を避けるべきではない。自然増以上の人口増加は、農業生産、陶器製造など、経済発展に繋がる。

　２、我々の、北の集落と南の集落の外側に農地を広げ、食料を増産し、中心区画には工房を設けて黒曜石の加工品や陶器で商品が生産させるから、それを載せる広域交易網を広げよう。それが富をもたらし始めるはずだ。

　３、今のところ、乱立する家屋群のままでいい。

　４、テオティワカン渓谷の農業では食料が足らなくなる。谷の外に広域交易団を派遣する際には護衛隊も必要だ。平常時には内部治安隊としても働いてもらおう。

　「あとは、どうやって全体をうまくやっていけるかどうかだ。何軒かから、まとめ役を出してもらえばいいんじゃないかな。定期的に祠に集まってもらったら、どうだろう。いざこざは誰も望まないはずだ。こっちはこっちで、これからも二人で話し合っていかないか？」

　〔プレ城砦の長〕はうなづいた。