第３章……テオティワカン以前のメソアメリカ

　テオティワカンが語るに足る存在となる前の時代を簡単に説明しておきます。

　15,000年前とも20,000年前とも言われる時期に、シベリアに住んでいたモンゴロイド系人類は、移動する大型哺乳類を徒歩で追いながら北東へ移動し、知らない間に凍ったベーリング海峡を歩き渡ってしまい、アラスカに入り込みました。

　北米大陸は、食物連鎖の頂点たる人間がいなかったので、動物の宝庫でした。しかし、家畜として再生産を図らなか った人間たちには、すぐに、近くの獲物を獲り尽くす事態に直面します。鹿やウサギなどの小型動物を狩りながら植物採集でその場に残るグループの他は、まだ狩られていない動物のいる南方へ向かいます。

　その繰り返しで、最終的には南アメリカ大陸の南端に到達するのですが、かなりの人々はさらなる南下をやめて各地に止まり、大型哺乳動物を追いながら季節的に洞窟を渡り歩く生活をしていました。
　メキシコ中央高原には、紀元前12,000年頃の大量のマンモスの骨の集積跡があります。メキシコシティーの北でも出土しました。

　そしてここでも、マンモスを獲り尽くし、もっと小型ですばしこい小型動物を追いつつ、野生植物採集に力点を増やしつつ、さらに収穫量増大に有利な定住農業を各地で開始しました。

　最初の定住農業集落都市を生み出したは、紀元前1,500年のオルメカOlmeca文化でした。その一つであるラ・ベンタLa Venta遺跡が放棄される紀元前500年頃には、メソアメリカ各地に都市人口10,000人に迫ろうとする巨大集落が多数、誕生しました。西には、テウチトランTeuchitlan文化のグアチモントネスGuachimontnes遺跡、南にはオルメカ文化が香るチャルカツィンゴChalcatzingo遺跡、東にはチョルーラCholula遺跡、さらに東のオアハカ盆地にはモンテ・アルバンMonte Alban遺跡。その東では、マヤMaya都市国家群が生まれていました。

　マヤ圏を除き、大きな軍事的干渉はほとんどなかったようです。一方、長距離交易は成立していました。交易旅団は、山賊に襲われます。護衛が必要になり、すぐ後に、警護員が戦士と呼ばれ、都市国家の軍が構成されるようになります。
　テスココ湖の周囲では、〔トラティルコTlatilco〕には豪華な交易品が副葬された平民の巨大墓地が造られ、また、20,000人の大集落に成長する〔クイクイルコCuicuilco〕が台頭し、紀元前400年に〔トラパコヤTlapacoya〕には神殿が建ちました。

〔トラティルコ〕Tlatilco

　紀元前1400年〜前600年に栄えた集落です。地上物は現代住宅及び工場化のために撤去されており、存在しません。しかし500体以上の埋葬地が見つかり、急遽発掘されました。埋め戻されていますが、人類学博物館に埋葬状態のレプリカが展示されてあります。

　ほとんど全ての遺体が、おそらく布に包まれて、土の上に安置されていました。その副葬品は、オルメカ文化の柔らかい造形美を帯びて、目を見晴らせます。

　↑all at 人類学博物館。

　また、特異な像も出土しています。トラティルカTlatilca博物館前のレプリカを載せておきます。

　↑all at トラティルカ博物館。

　顔は、写実的ではありません。何らかの幻覚作用で得られた図像でしょうか。
　どうやら、地上に大きな神殿やピラミッドはなかったようです。陶器工房の大集落だったのでしょうか。時代的にオルメカと重なり、その都市とは200kmしか離れていません。オルメカの地でこれほどの完成度の高い遺物は出土していませんので、〔トラティルコ〕で造り、輸出していた可能性があります。なお、多くの遺体に風土病の痕跡があったと報告されています。